会社を辞めてから1年。NGOの代表になってから半年。2014年を振り返って思う7つのこと

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Review2014

「会社を辞めてから1年が経ちました」
「NGOの代表になってから半年が経ちました」
「28歳になりました」

このような節目の度にブログを書こうとしたものの、それを実現することはできず、気がつけば2015年1月末。2014年の振り返りもできないまま新年を迎え、もう少しで2月になります。

「なかなか上手くいかない」

2014年を振り返って思い出すのはこんな言葉です。昨年は実現できなかった目標がたくさんありました。ひどい失敗を重ね、現実と目標との距離の差に悩み、達成感よりも無力感を味わった1年間でした。

ただ、それでも最高だと思ったこの1年間のことをぜひ皆さんにもお伝えしたく、昨年を振り返りながら今思う7つのことをご紹介したいと思います(合計15,000字くらいの文字量なので、時間があるときにゆっくりご覧いただけたら幸いです)。

2014年の1年間、何があったのか?

「JICAを退職後、NGO e-Educationの代表になり、先日NPO法人になりました」

すごく短くまとめるとこの程度で済むのですが、語れと言われたら本当に何時間でも語ることができる気がします。

ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、フィリピン、インドネシア。出張で訪れた全ての国で、心が高鳴る瞬間がありました。途上国の農村部で子どもたちの可能性が開く瞬間を見た時、世界銀行との交渉がうまく行った時、日本の大学生たちが異国の地で驚くほど成長しているのを目の当たりにした時、彼らの努力が実って数え切れないほどの「ありがとう」が帰ってきた時。感動した瞬間は上げればキリがありません。

JICAを退職した時、『憧れの職場を退職し、大好きなことを仕事にします』という記事を書きましたが、好きなことが仕事になった喜び、大好きなことに100%打ち込める楽しさは、この1年で十分に味わうことができました。

ただ、それでも2014年の1年間は「楽しさ」よりも「苦しさ」の方が多かったと言い切れます。少なくとも昨年を振り返って真っ先に思い出すのは、なかなか眠れない夜の記憶です。自分のいる場所がわからず、目的地すら分からない状態は、まるで海を漂流しているかのようでした。目指すべき次の目的地(島)を探しては、そこに向かって全力で泳ぎ、次の島に着いたらまたすぐに海へ飛び出して。ゴールの見えないマラソンを走っているような不安が連日のようにやってきました。

「楽しい時間は一瞬である」という言葉の意味は幼い時から理解できましたが、「苦しい時間は無限に感じる」という真逆の言葉の意味をようやく理解できた気がしました。

起業は、苦行である

経営者になって間もない頃、かつて同じように会社を退職して起業の道を選んだ先輩からこのようなアドバイスをいただきましたが、その意味も少しだけ理解できたつもりです。

だからこそ、越えるべき壁の高さや目的地までの道のりの険しさを教えてくれた先輩起業家たちのように、私も1年間、見て・考えて・感じて・つまづいて・乗り越えて・走り続けてきた中で思ったことを7つに絞って紹介します。

これから起業を検討している方、新しいキャリアへ進もうとしている方に、ぜひ知っていただきたい学びです。

1.お金よりも経験が大事

2014年は、お金に対する考え方が激変した1年間でした。

それまでお金は「もらうもの」であり、給料日は「嬉しい日」でした。

それが退職してNGOの経営者になると、この考え方は180度変わります。お金は「わたすもの」となり、給料日は「怖い日」になりました。どんどん団体口座から金が出ていくのは恐怖以外の何物でもなく、給料日が遅くならないかと何度も思いました。

また、NGOの代表になってから、お金は「生み出すもの」にもなりました。自分が動かなければ資金は決して集まりません。毎月のように減っていく口座残高と睨めっこをしながら、次の一ヶ月を生き延びるためにお金集めに走る日々が続きました。

退職して半年ほど経った時、会社を辞めてからの学びを記事にしましたが、その時もやっぱり最初に思い浮かんだのは「お金」に対する意識の変化でした。ぜひこれから起業する方々にはぜひ知っていただきたい大きな学びの一つです。

もっとリアルなお話もしましょう。

JICAで働いていた時と比べると、随分と給料は下がりました。

給料だけではありません。困った時に的確な答えをくれる上司もいなければ、自らのスキルを上げるためのトレーニングプログラムのようなものもありません。

右に進むのも、左に曲がるのも全て自分の判断によって決まり、人生で「はじめて」の経験が沢山ありました。

そう、経験なのです。以前の職場で働いていた方が知識は磨かれ、仕事のノウハウは身についたでしょう。しかし、唇を噛みながら歯を食いしばって進むこの経験は今の仕事でなければ得られないことであり、一生の財産になると自信を持って言えます。

若い時の苦労は買ってでもせよ

社会人になる時、母からこんな言葉をもらいました。なぜ苦労を「買う」なんて言葉があるのか当時は全く理解できませんでしたが、確かにお金を積んでも味わうことのできない「経験」だからではないでしょうか。

あのDeNAの創業者である南場智子さんも『不格好経営―チームDeNAの挑戦』の中で、Doer(実行者、実践家)にならなければ経営の苦労はわからなかったと述べています。マッキンゼーのコンサルタントとして経営者にアドバイスすることはできても、実際に組織のトップにならなければ経営としての経験は身につかないという強いメッセージでした。

私は、まだ経営者を名乗るには非常に未熟で、(この後紹介しますが)思い出したくもない失敗ばかりの経営者1年目でしたが、それでも経験は確実に増え、きっとこれからの経営に役立っていくのではないかと思います。

この一年間、下がった給料を遥かに上回る経験を得ることができました。これだけでも、2014年は最高の一年だったと胸を張って言えます。

2.他人よりも2倍経験値を稼ぐ方法

経験についてもう少し補足しましょう。

もちろん退職して起業したからといって、経験が増えるというわけではありません。

経験は、努力した時間に比例する

これはイーロン・マスク氏の言葉です。EV(電気自動車)のテスラ・モーターズ、宇宙ベンチャーのスペースXを牽引する、世界で最も注目されるベンチャー経営者と名高い彼は、「どんな社員よりも、ロケットやEVについて知っていると自負しています」と言い、以下の発言からも分かるように知識は努力によって得たと述べています。

週40時間働けば1年かかる仕事が、週100時間働けば4ヶ月で達成できる(YouTubeより)

退職してからというもの、私は朝起きてから夜寝るまでトコトン仕事に打ち込みました。そんな自分の身体を心配してか、仲間たちから休みを取るように説得されて1週間ほど休暇をり、関西を旅行しましたが、結局道中で考えていたことは仕事に繋がることばかりでした。

この関西を旅行した時期は、ちょうど「ブラック企業」や「ホワイト経営」という言葉がニュースになっていました。日本の大手企業が労働時間の短縮を図っている一方、世界屈指の起業家が満面の笑みで「地獄のように働け」と言っていることに違和感を覚え、結局私は週100時間働くことを決めました。

1年間で約5000時間。総務省統計局の「労働力調査」によれば、男性(正社員と非正規社員)は平均して年間2300時間強働いていることになりますが、少なくとも私は2倍近い時間働いた計算になります。

もちろん働きすぎて倒れるのは社会人として失格ですし(以前過労入院して沢山の方に迷惑をかけた経験から絶対に同じ失敗はしないと決めています)、こんな働き方がいつまでも続くとは思っていません。増してや仲間に強要しようとは思いません。ただ、未熟な経営者が少しでも多くの経験を掴むために、私は週100時間働き続けました。

この働き方を通じて分かったことがあります。それは、好きなことを仕事に変えていくことが100時間働く上で不可欠だということです。

私の尊敬する起業家であり、ケニア最大の食品加工会社「ケニア・ナッツ・カンパニー」を作った佐藤芳之さんの著書『歩き続ければ、大丈夫。—アフリカで25万人の生活を変えた日本人起業家からの手紙』でも、「必死にやらない、夢中でやる」と、好きなことやハマるもので仕事を前に進めていく方法が述べられています。

男子400mハードルの日本記録保持者でもあるアスリート、為末大さんも著書『走りながら考える』の中で、「”苦しさ”や”一生懸命”、”必死”でやっている人は、”無我夢中”、”リラックスした集中”でやっている人にはどうしたって勝てない」と、好きな分野や得意なフィールドで戦うことを勧めています。

彼らの本を読み、仕事の方法を少しずつ変えていきました。具体的には、途上国で教育支援を行うNGOでありながら、WEBメディア「トジョウエンジン」の運営に注力しました。ブログが大好きな自分のできることを、仕事に重ねていきました。

結果、国連開発計画(UNDP)主催のソーシャルグッド・サミット2014や、NPOマーケティング フォーラム2014にてメディア運営のノウハウやコンテンツ・マーケティングについてお話しさせていただく機会を頂く機会を頂きました。働くという「経験」が増えたことで、仕事の幅が広がったのです。

ここで誤解のないよう強調したいのは、努力した時間が成長に繋がるわけではないことです。上でも触れた通り、優秀な上司や同僚に囲まれた職場の方がきっと成長できることでしょう。

ただ、経験は違います。事業が前に進まなくても、たとえ自分が失敗したとしても、それは次につながる経験であり、そういった意味では昨年の2倍以上の経験を獲得することができました。

「人生ってドラクエのレベル上げに似てるよね」

経営者仲間でご飯を食べに行った時、こんな話で盛り上がりました。この経験はすぐに活きてはきませんが、確実に自分の血や肉になっており、いつか大きな勝負がやってきた時に、役に立つのではないかという期待があります。

もしかしたらRPGのように、この経験が一定以上たまると急に成長(レベルアップ)する日が来るかもしれません。

昨年1年間で溜まった経験がこれからどう活きてくるかわかりませんが、今後も他人より多くの経験値を獲得するために、自分を律し、努力し続けていきます。

3.自分の成長よりも大切なこと

努力する時間に比例して経験は増えても、成長に繋がらない。では、どうすれば経営者(社会人)として成長するのでしょう?

退職してからというもの、「もっと成長しなければ」と毎日同じ課題にぶつかりました。なんとか活路を見出そうと、上司がいなくなった代わりに経営者の先輩へ相談するようになり、社内勉強会がない代わりに外部のセミナーに参加しました。

明日は0.1%でも成長できているようにと、毎日自分の定めた目標を越えることに必死でしたが、半年ほど経ってこれが間違いであることに気がつきました。

「もし150%の力を出さないとこなせない仕事があるとしたら?」

私は今までの1.5倍頑張って乗り越えようとしましたが、途中で緊急かつ重要な案件がやってきて、ここでパンクしました。納品が遅れ、その遅れを取り戻そうとすると今度は他の案件が疎かになり、結果、多くの人たちに迷惑をかけました。

ここで過ちに気づきます。それは、自分の成長よりも組織としての、もっと細かく言えば隣で働いている人の成長の方が大事だということです。たとえ、私が80%の力しか出すことができなくても、隣の仲間が私の70%分の力を出してくれたら、仕事は終わるのです。それもずっと良い形で。

こんな簡単なことにずっと気付かず、自分の成長ばかり気にしていた自分が恥ずかしくなりました。

そして、働き方を変え始めます。具体的には、自分以上に仲間たちが成長できる場を探し、合計5つの外部プログラムに応募・参加しました。NGO/NPOに関わる人であれば、ぜひ知ってほしいプログラムです。

  1. 社会起業塾イニシアティブ…NPO法人ETICが実施している起業家支援プログラムであり、社会起業の登竜門とも言われている。NGO/NPOの経営改革に実績のあるシニアメンターのアドバイスの元、異なる分野で活躍する起業家たちと協力しながら経営改革を進めていく半年間のプログラム。NECや花王など協賛団体から金銭的な支援(約40万円)もあり。参加には3ヶ月ほどの選考を突破する必要があり、2014年は私たちe-Educationを含む9つの団体が選出された。
  2. 草莽塾…NPOマーケティング研究所が主催している半年間のプログラム。前半はマーケティングの基本的な理論を学び、後半はマーケティング施策を策定・実行・改善していく。寄付会員の獲得など特定のマーケティング課題を持った状態で応募することが推奨されている。参加には参加費5万円が必要な他、書類選考を突破する必要がある。2014年は私たちe-Educationを含む6つの団体が選出された。
  3. NPOアカデミー…NPOサポートセンターが実施しているNPO/NGO研修プログラム。salesforceの活用やメルマガの編集法など細かく講義テーマが設定されており、講座ごとの参加が可能。講師としてNGO/NPO経営者や事業責任者が登壇し、「実践知」や「最新手法」を獲得できる実践的なプログラムです。e-Educationからはスタッフの担当業務に合わせて講座へ申し込んだ。
  4. SVP東京 協働・投資プログラム…ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)が実施しているプログラム。名前の通り、資金的な協力(年間最大100万円×2年間)に加えて、パートナーと呼ばれるSVPメンバーが協働という形で経営改革に対するアドバイスやサポートを行う。e-Educationは2013年に選出され、2014年も継続してサポート頂いてきた(※2014年からは担当業務ごとに小さなタスクチームを形成して毎月ミーティングを実施している)。
  5. グリーンズ編集学校 2014秋冬…WEBメディアgreenz.jpを運営するNPOグリーンズが実施している編集者養成プログラム。NPO向けのプログラムではないが、e-Educationの運営するメディア「トジョウエンジン」をより良いメディアにするために申し込んだ。

それぞれ目的は異なるものの、「チーム全体の成長」という切り口で参加しました。国内インターンとして頑張ってくれている仲間たちを中心に参加したプログラムが多く、2014年の10月に開かれた草莽塾の中間プレゼン大会では、インターンメンバーのみのプレゼンで優勝することができました。

この経験を通じて、改めて自分の仕事のあるべき姿を考えました。ミッションの実現に向けて、誰が何をしたら目標が達成されるのか?チーム全体が成長していくのか?「成長」の主語を見直すことができたのです。

もう自分の成長にはこだわりません。どうしたらチームとして、組織として最高のパフォーマンスを出すことができるか、今年2015年はここに専念していきます。

4.すべての原因は、経営者本人

「こんなことも分からないのか」

上で紹介した「成長」の誤った認識を経て、自分を疑うようになりました。ちょうどこの時期は組織のメンバーが急に増え、少しずつ組織の風通しが悪くなってきた時期でもありました。

「人数が増えてきたら、風通しが悪くなるのは仕方のないことだ」

こんな浅はかな考えで組織を経営していたのは、他でもない私でした。メンバーが増えたら、できる仕事の総量は増える一方で、異なる課題が生まれてきます。

それは個々のメンバーの想いの衝突であり、これは組織を進化させるチャンスにもなれば、組織を崩壊させるピンチにもなります。経営者の自伝を読めば、どこでも強調されているこの重大なことを、私は随分と軽視していました。

そして、限界がやってきます。

「この組織を、辞めたい」

こう申し出てきたのは一人ではありませんでした。そして本当に恥ずかしい話ですが、ここでも私は「勘違い」をします。

「一体、誰とうまくいっていないんだろう?」

それが自分であることを理解するまでに、随分と時間がかかってしまいました。考えてみれば当然の話です。私だけが(日本人)唯一の有給職員で、他の皆は無給のインターンやボランティア。一番距離が離れており、風が止まりにくくなる場所は間違いなく経営者である自分でした。

ただ、最大の「勘違い」はそこではありません。衝突の原因や、辞めたいという言葉には、もっと別の意味が込められていました。

「この組織がもっと良くなるには?」

そう、仲間たちはそれぞれ自分の信じる「良い組織」があり、それに向けて勇気を出して意見してくれました。「組織から離れる」という言葉も、より良い組織を作るために必要だと判断して色んな想いを殺して提案してくれたものでした(この時は気づきませんでした、本当に申し訳なかったです)。

なのに、私は「人間関係がもっと良くなるには?」「ここでメンバーが離れることのデメリットは?」程度のことしか考えておらず、ここまで来ると本当に自分が経営者で良いか不安になってきました。

不安は増え続けます。

当時のe-Educationのミッションは「途上国の教育課題を若者の力で解決する」というものであり、「途上国の教育課題を映像教育で解決すること」と「それを日本の大学生によって実現していくこと」という2つの特徴がありました。2つの特徴はどちらも大勢の方から支援・応援してもらってきましたが、実はこれがメンバーの衝突の原因にもなっていました。

「どちらが優先すべき特徴(ミッション)なのか?」

この質問に対して、私は答えることができませんでした。なぜなら、どちらも私がやりたいことであり、そこに優先順位はないと考えていたのです。

これは私の性格による課題でした。私は昔から「あれかこれか」という選択肢を突きつけられた時、「あれもこれも」と答える人間でした。以前ブログでも『スイッチヒッターになります!』と公言していた通り、2つのミッションを同時に追いかけることにやりがいを感じていました。

しかし、私個人はそれでよくても、組織のレベルで当てはめるのは無理というものです。中には(SVP東京のようにパートナーと支援先が共に成長していく)共成長・デュアルミッションという考えもありますが、私たちの場合「途上国の子ども」と「日本の大学生」は交わる面積が少なく、優先順位をつけるべきものでした。

組織の風通しの悪さも、ミッションの不明確さも、さらに言えば他の課題も、必ず経営者である自分が関わっていたのです。例えば、仮に部下が動いてくれなかったり、思うような成果が出なかったとしても、それは上司の依頼する方法や託すやり方が間違っているケースがほとんどであることは、部下を持つ社会人であればきっとご存知でしょう。

私たちe-Educationの社内研修に講師としてご協力頂いているラグビー20歳以下(U20)日本代表監督の中竹さんも『自分で動ける 部下の育て方 期待マネジメント入門』『部下を育てるリーダーのレトリック』の中で経営者の一言が、いかに影響力を持つのか厳しく言及されています。

にもかかわらず、私は仲間のミスを彼ら個人の努力不足と勝手に決めつけ、改善すべきポイントを述べるだけで、自分の仕事のあり方を見つめ直すことを怠ってきました。これでは組織が上手く機能するはずもありません。

こういった課題の原因を一つずつ紐解いていくうちに、「すべての課題は、経営者本人である」ことに気づきました。気づいたのは2014年10月末。退職して1年、代表になって半年が経っていました。あまりにも気付くのが遅く、このままでは組織を殺しかねないという不安に駆られ、私は代表のポストを誰かに渡し、退職以前のように裏方のサポートに回ろうと決めました。

5.決断と戦略

「いつ、代表を辞めることを皆に伝えようか」

こんな不安を抱えながら、ETIC社会起業塾イニシアティブの合宿に参加しました。

社会起業塾とは、先ほども少し紹介したように、ETICが実施している起業家支援プログラムの一つであり、2014年は私たちe-Educationを含む9つの団体が選出されました。

久しぶりに会う経営者仲間たち。それぞれが事前に定めていた課題をこなし、目標達成に近づいているのも見ながら、何度も逃げ出したい衝動に駆られました。

「私は、ここにいるべき人間ではない」

あまりの不安に、私は合宿1日目の夜に飲み会を早めに退席し、海外にいる仲間たちとのSkypeミーティングを行いました。本来であれば、 Skypeは合宿終了後でも良かったのですが、逃げるように、助けを求めるように仲間たちへSkypeしました。

そんな不安を察してか、古くから付き合いのあるメンバーから驚くような言葉をもらいました。

「開人さん、もし自分たちの活動が重荷になっているのであれば、迷わず僕たちを切ってください」

覚悟の詰まった言葉でした。彼の言葉は続きます。

「それが開人さんの決断であれば、きっとe-Educationはもっと良くなると信じることができるので、僕はその決断に従います」

目頭が熱くなり、言葉が出なくなりました。まるで「経営者を辞めるな」と言われたような気がして、もう一度考え直そうと決めました。

今の自分にできることは何か?この決断を人に任せることができるか?誰かの努力を一旦0にしてしまうような、そんな責任を他の人にお願いできるのか?

自分の役割がやっと見えてきました。決断とは断つことを決めることであり、その責任を負うのが経営者です。鈍器で人を殴るような感覚をしっかりと手に残し、その痛みを前に進むための力に変えていくのが経営者という生き物だと学びました。

「この責任は、誰にも譲りたくない」

こうして自分が経営者であり続ける理由が一つできました。

合宿の最終日、最後の振り返りセッションでは、涙が止まらず何も話せなくなりました。経営者としての無力さと、それでも信じてくれる皆への感謝で数年ぶりに号泣しました。

今そのこと(経営者が最大の課題であること)に気づいてよかったじゃないか。あたしは最近気づいたばっかりだよ。

シニアメンターのお一人、ケア・センター やわらぎの代表理事・石川治江さんから、こんな言葉をもらいました。そして戦略の大切さを、戦うことをいかに省略できるかが重要であることを教えてもらいました。

決断と戦略。それは経営のみならず、人生においても不可欠な武器のはずですが、その意味を頭と身体で理解するのに28年もかかりました。これからきちんと磨いていきます。

6.経営者の仕事は、川の流れを作ること

では、決断をし、戦略を練ること以外に経営者は何をすれば良いのでしょうか?

上で紹介したように、最大の経営課題である自分本人をどのように変えていけば良いのか、どうしたら良い組織になるのか、その答えは11月になってもまだ見つかっていませんでした。

そして私にはもう一つずっと悩み続けてきたことがありました。

それはe-Educationの創業者である税所篤快へのコンプレックスです。正直なところ、2014年7月に代表を交代してからというもの、彼と自分を比較してばかりいました。

彼のことについて少し紹介すると、税所篤快は「大学生起業家」として創業当初から各種メディアで取り上げらており、本も4冊出版しています。昨年末に発行された新刊『突破力と無力』のタイトルの通り、不可能と言われても突き進んで壁を突き破る突破力やスピードと、無力さや弱さをさらけ出して多くの人たちを巻き込んでいくカリスマ性を持つe-Educationのリーダーです。

そんな彼からe-Educationの代表を引き継いだのは昨年7月でしたが、それから悩む日がずっと続きました。彼に勝てない要素は無数にあり、「自分らしさ」という見えない武器を探していました。

目指すべき経営者像をしっかり描くために、先輩起業家の話も聞いて回りました。マザーハウス副社長の山崎さん、SVP東京代表/カタリバ理事の岡本さん、かものはしプロジェクト共同代表の村田さん&本木さん、日本ファンドレイジング協会の鵜尾さん。私がずっと尊敬していた経営者の方々の話を伺っても、答えはやはり見えません。

そんな状況で迎えたETICの社会起業塾の合宿。上での紹介した通り、経営者を辞める覚悟で臨んだ合宿初日の夜、自分のライフストーリーについて語るセッションがあり、ここぞとばかりに溜まっていたことをぶちまけました。

静岡の田舎で育ってきたこと。東進ハイスクールで(「今でしょ!」で有名になった林修先生のアシスタントとして)4年間アルバイトをしてきたこと。アジアをバックパッカーで半年間放浪したこと。マザーハウスでインターン。JICAで感じたやりがいと限界。最後に、e-Educationで挑戦してきたことと今後やりたいことについてプレゼンしました。

先ほど紹介したe-Educationの2つの特徴(=私のやりたいこと)についてもプレゼンしました。「途上国の子どもたちの可能性を切り開く」ことと「日本の大学生に海外で活動するチャンスを作る」こと。決断と戦略を考える上で、どちらかに絞る(集中する)必要があることは明確でしたが、全てを曝け出そうと思って素直な気持ちを合宿参加者の皆さんにお伝えしました。

そして次の日のお昼、コーディネーターとして参加されていたCRファクトリーの呉さんからこんな言葉をいただきました。

昨日の話、一見やりたいことが分散しているように感じたけど、根っこの部分は同じなんだなと僕は思ったよ。三輪くんって、ようはプロデューサーなんだよ。

晴天の霹靂。頭に雷が落ちてきたような衝撃と同時に、代表を交代した時に書いた挨拶文を思い出しました。

周り巡って、自分のやるべきことや、自分にしかできないことが徐々に見えてきました。そしてトドメを刺すかのように、ETICの代表・宮城さんから経営者の役割について教えてもらいます。

結局、経営者の仕事って川の流れを作ることなんだよね

非常に短い言葉でしたが、心の底まで響きました。溜まりに溜まっていた悩みが、言葉と一緒に腑に落ちました。

「プロデューサーとして、川の流れを作る」

これこそが経営者としての自分のやるべきことであり、自分の力を出し切ることができる領域であると思いました。

退職して1年。随分と時間がかかりましたが、ようやく経営者としてのスタートラインに立てた気がしました。

7.答えは、現場にしかない

さて、スタートラインに立ったものの、川の流れを急に作ることなんてできません。経営者としてやるべきことは見えたものの、具体的な行動計画までは落とし込めていませんでした。

そんなモヤモヤを抱えながらも、小さな決断(=やめる)と戦略(=しないこと)作りを進める中で、大きなチャンスが巡ってきました。それがアイスクリームのBen & Jerry’sが実施いている「集まれ!よよよい仲間たち」というビジネスコンペティション。賞金140万円、コラボ商品の開発、そしてBen & Jerry’sの本拠地であるアメリカ視察がセットでついた大会で、数ある応募者の中からファイナリストに選ばれました。

賞金が欲しかったのは言うまでもありませんが、それ以上に興味があったのがアショカ財団や他の国の起業家たちとのネットワークでした。アショカ財団は、大学在学中からずっと関心があり、特にアメリカを中心に活動している起業家(アショカ・フェロー)はどなたも尊敬する方ばかりで、彼らからもっと多くのことを学びたいとずっと思っていました。

e-Educationを世界屈指のNGOにするための大事な一歩だと思い、今までのどのプレゼンよりも準備をして本番に臨みました。配布資料やプレゼンに挿入する動画も1から練り直し、当日は通訳の方の話すスピードまで考慮して納得のいくプレゼンをすることができました。

しかし、優勝することはできませんでした。

優勝したのはHomedoorという、関西を中心に活動し、ホームレスの方々の自立支援を行っているNPOの代表・川口さん。優勝できなかった悔しさと川口さんの経営者ノウハウを学びたく、帰りの電車まで何度も質問し続けました(川口さん、あの時は本当にすいません)。

そしていくつか分かったことがありました。まずは年季が違うこと。川口さんはまだ24歳と、私よりも年下でしたが、活動を始めて10年以上経っていました。それに対して私はまだたったの5年。5年後どころか来年の目標すら見えていない自分との距離の差を痛感しました。

それから自然体であること。彼女は終始ゆったりとした空気をまとっていましたが、企業当初は何を話していいかわからず、今も人前で話すのはあまり得意ではないそうです。ただ、それでも年間100回以上、これまで何度も何度もプレゼンする中で、自然に話すことができるようになったと言います。

最後にもう一つ。彼女の「自然体」には理由がありました。それが現場であり、彼女は現場で起こっているありのままをプレゼンに込めたそうです。そういえば、プレゼンが終わってすぐに彼女はこんなことを言っていました。

「早く大阪に帰って、”おっちゃん”たちに会いたい」

“おっちゃん”とは関西のホームレスの方々を指し、彼女は現場に一秒でも早く帰ることを望んでいました。それに比べて私と言えば、プレゼンの結果ばかり気にしている。これでは勝負になりません。

プレゼンで負けた帰り道、ETIC社会起業塾で一番お世話になっているシニアメンター、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表の川北さんの言葉を思い出しました。

ニーズの代弁者たれ

私たちe-Educationにとって、ニーズとは途上国の子どもたちの悩みであり、最近は仕組みや結果にこだわりすぎて、彼らが今何に悩んでいるのか自信を持って言えなくなっていました。

答えは、現場にしかない

これは早稲田大学でお世話になった自分経営ゼミの友成真一先生の言葉です。先生の著書問題は「タコつぼ」ではなく「タコ」だった!? 「自分経営」入門でも触れられていますが、現場にとことんこだわり、その一点を突破したものが殻を破ることができるとずっと前に教わっていました。

「川の流れは、どうやったら作ることができるのか?」

この質問に対する答えが見えました。答えは「現場に行く」です。

昨年12月、e-EducationのNPO法人化記念感謝祭を開く3日前に、国内外のメンバーにできる限り集まってもらい、今後の方針について一緒に議論しました。

会議の終盤、川の流れを作るために「現場にもっと行きたい」と自分の想いを伝え、そのための決断や戦略を伝えたところ、皆温かく受け入れ、応援してくれました。

何かが進んだわけではなく、相変わらず課題は山済みです。それでも、進むべき道が見え、それを応援してくれる仲間がいることに安心して、約1年ぶりに自分を許して大晦日の夜、寝ることができました。

まとめと2015年に向けて

かなり長くなりましたが、最後に2014年を振り返って思う7つのことを整理したいと思います。

1.お金よりも経験が大事
2.他人よりも2倍経験値を稼ぐ方法
3.自分の成長よりも大切なこと
4.すべての原因は、経営者本人
5.決断と戦略
6.経営者の仕事は、川の流れを作ること
7.答えは、現場にしかない

冒頭でも触れたように、昨年は達成できない目標が沢山ありました。ただ、その代わりに7つのことに気づけたと思うと、やはり昨年は最高の1年だったと本気で思います。

いや、少し違いますね。2014年が最高の年だったというためには、7つの学びをどこまで2015年に活かすことができるかに掛かっています。

まずは現場に戻り、ニーズをはっきり掴んだ上でもう一度川の流れを作り上げます。その上で何度も決断し、戦略を練り続け、組織全体がどうやったら成長するかに全てを注ぎ込みます。経営者として未熟な分、少しでも経験値を稼ぐために昨年以上に努力し続けます。

と、意気込むのは簡単ですが、それだけでは上手くいかないことを昨年たっぷりと反省しました。自分には、全てを自らの力で変えるような力はありません。突破力も、巻き込む力も、ロジカルに考える力も、他の経営者に比べれば劣っています。

だから、私は「チームをプロデュースする」ことに徹しようと思います。上であげたことは私一人の力で実現する必要なんて全くありません。

今年はもっと仲間に助けてもらおうと思います。非常に図々しい話ですが、図々しくなると決めました。

早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで行け(If You Want To Go Fast, Go Alone. If You Want To Go Far, Go Together)

アフリカのことわざにもある通り、遠くにいくための川を作るには皆の力が必要です。

昨年末、私たちe-Educationは団体初となる正職員の募集を開始しました。

100年に一度という大きな教育改革の迫るフィリピンを中心に、東南アジアを飛び回る海外総括というポストです。これからのe-Educationの川の流れを一緒に作り、世界に通じるNPOへと育て上げていく大切な仲間です。

「アジア全体の教育を変えるNPOを一緒に作り上げたい」

そんな熱い意思を持った方の応募をお待ちしております。一緒に教育改革を起こしたいという方は、ぜひご検討ください!

最後に

最後にどうしてもこの記事に書きたいのは、これまで一緒に走ってくれたe-Educationの仲間たちへの感謝です。

アツ、マヒン、種ちゃん、梨沙、唯香、友美、ドガくん、千晶、秦くん、建明、ぬま、タケル、修平、丸吉、慶一くん、アツモリ、アキ、琴弓、べっち、綜志、いっちゃん、諒哉、みほ、のぞみ、直人、慎治、沙紀、のぶ、はるちゃん、伊藤くん、千葉ちゃん、今井さん、高木君、まりちゃん、大地くん

皆のおかげで私の人生は予想していたよりも何倍も面白くなり、2014年は最高の1年になりました。感謝してもしきれません。

この恩は、e-Educationという団体の成長を通じて、途上国の子どもたちだけでなく関わる全ての人を笑顔にするという形で少しずつ返していけたらと思います。

視界は不明瞭、目的地はまだ見えず、足元は相変わらず不安定で、心はいつも不安ばかり。それでも、仲間たちや、これまで協力・応援してくれてきた方々の顔を思い出すと、なぜか何とかなる気がしてきます。

1年の振り返りに随分と時間がかかってしまいましたが、ここから遅れをと戻すべく頑張りますので、今年もどうぞよろしくお願いいいたします!

三輪

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