『未来をつくる図書館-ニューヨークからの報告-』

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図書館
photo credit: – Dave Morrow – via photo pin cc

 

図書館の機能

“ゼロックスのコピー機、ポラロイドカメラ、フェミニズム運動のバイブル「新しい女性の創造」は図書館から生まれ、名もない市民が夢を実現するための「孵化器」の役割を果たしている”
このようなイントロから本は始まります。
この本では、ニューヨークの公共図書館は、ビジネスパーソン、芸術家、ジャーナリストといった様々な職業、女性や移民といった人々を支え、世に送り出すための社会的なインフラになっていることが、ルポによって明らかにされていきます。無名の利用者がスターになっていく、それを誇りにする図書館のスタッフ。
「敷居の低さ」と「サービスの高さ」が見事に絡み合い、正のスパイラルを生んでいる図書館の有様が丁寧に描かれています。

序章の最後で筆者は、公共の図書館の充実のメリットとして以下5点を並べている。
①組織の後ろ盾を持たない市民の調査能力を高める
②新規事業の誕生を促し、経済活動を活性化させる
③文化・芸術関連の新しい才能を育てる
④多様な視点から物事を捉え、新たな価値を生み出す
⑤コンピューターを使いこなす能力をはじめ、市民の情報活用能力を強化する

こうした「知のインフラ」としての図書館の機能を以下五章に分けて説明している。

 

本の概要紹介

第一章 新しいビジネスを芽吹かせる
(EX.SIBL)
・ビジネスと科学に特化した情報提供を行う先端的な図書館
・高価なデータベースの無料提供
・正面の壁に彫り込まれたビジネス哲学の格言の数々
・ブルームバークの株式情報端末三台(金融)
・「顧客(※カスタマーと呼ぶ)満足」のため、電話予約や司書対応を強化
・利用者教育(PCスキルの向上など、※司書全員が講師の義務)
・ビジネスカウンセリングNPO(SCORE)との連携
・「敷居の低さ」
・就職活動支援(厳選されたデータ、面接練習・ES添削)

第二章 芸術を支え、育てる
(EX.リンカーンセンターの図書館)
・“調査は創作の原点”
・本のない図書館(写真、ビデオなど、 ※本は3割)
・「生素材」を収集するため、個人への交渉も多数(図書館自ら情報収集)
・有名な歌手・俳優も利用
・予備軍の育成(無名のアーティストへのPC利用提供)
・レコード会社も協力
・スタッフの専門性(図書館司書多数)
・展覧会にコンサート、演劇、ダンスの講演も混ぜる
・キャリアを形成するための支援も
・映画製作者などとの交流会

第三章 市民と地域の活力源
(EX.ジェファーソン・マーケット分館(地域分館)、ブルックリン公共図書館)
・地域の情報拠点(専門の棚あり)
・アットホームな講座(読み聞かせ、料理教室、語学講座など)
・地域の人達のためのテロ情報サイト(911事件当時)
・医療情報の強化(市民が最も必要とする情報)
・「児童室」の完備(※ブルックリンの児童館)
・育児に悩む親・教師を応援(専用のコーナーあり)
・図書館と教師との頻繁な意見交換
・宿題支援(ティーンのボランティアも充実)
・高齢者支援(高齢者が高齢者にサービス)
・「誰でも図書館」を目指して(障害者向けサービスも強化)
・行政情報の窓口(言論・思想の自由への意識が高い)

第四章 図書館運営の裏側
・個人図書館が前身(アスター図書館とレノックス図書館)
・図書館はNPO(運営は市民が中心)
・カーネギーの貢献(5600万ドル→2000以上の図書館)
・資金集めやマーケティングの専門チームあり
・「友の会」「寄付講座」など資金集めの仕組み・イベント多数

第五章 インターネット時代に問われる役割
・図書館主導の検索システム(必要な人に必要な情報を)
・電子ブックの提供も
・デジタル化→図書館側からの情報発信(EX.テロ情報サイト)
・知の交流の場としての機能強化(EX.研究者・作家センター)
・歴史をつくる図書館(研究員による情報収集と紡ぎ作業)
・「いかに充実したサービスを受けられるかが大切」
(“インターネット時代こそ図書館”と語るウォーカー研究図書館部長)

 

むすびと感想

本の最後(むすび)で筆者は日本は「図書館後進国」と主張している。
確かに、上記のような機能が日本の図書館にはまだない気がする。

その大きな要員の一つは「個人の力(意識)」の差な気がした。
アメリカの図書館は市民、個人の力によって運営され、そこで育った人が成功したら寄付やボランティアで恩返しをして、次にチャレンジする人々のインフラを整えるという、正のスパイラルが働いている。この本に書かれているのは図書館という特定の施設ではなく、個人を生かすための知や社会のインフラであると考えると、公共施設、大学、商店街や企業にも関わってくる問題ですが、今後の日本に必要とされる課題な気がした

そんな「場」の必要性を感じた本でした。

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